ベルニーニの四大河の泉があるけれど、
元は1世紀に建てられた3万人収容のスタジアムの跡地で
観客席だった強固な躯体を利用した店舗が並び、
スタジアムの曲線がそのまま凹面の外壁となって、
歴史を記憶に残した形になっている。
クアトロ・フォンターネ聖堂は、
曲面に波打ったファサードに
内部の楕円形のドーム天井が、
十字形と八角形と六角形で、
見事な幾何学模様になっていて、
上に行くほど狭く納まる、
イスラム芸術の三次元デザインを思わせる天才的な空間だった。
様々な広場や噴水は市民の憩いの場となり、
ボルゲーゼ公園などの広大な緑地の自然公園もあり、
街中に心地よい居場所がたくさん作ってある。
ピンチョの丘の斜面に作られた
スペイン階段やトレヴィの泉も
バロック時代のものだ。
これらの劇場的な空間は街に開かれていて、
身近に立ち寄れて、腰掛けられる。
トレヴィの泉は建物に囲まれて、街路より掘り下げられているので、
俯瞰によってこの劇的な空間が一瞬にして心に焼き付けられる。
そういえばパンテオンからトレヴィの泉に向う途中に
アントニヌス・ピウス帝が2世紀に建てた
ハドリアヌスの神殿の列柱が現存していた。
柱脚の基礎構造も見える状態になっていて、
採石場の名残で石の広場と呼ばれている。
ボルゲーゼ美術館にあるベルニーニの「プロセルピナの略奪」は、
僕が一番心奪われた彫刻作品だ。
逃げようとする抵抗の躍動感でドラマティックに、
しかも指が柔らかなもとももに喰い込むリアリティを
またふたりを3次元にどの方向から見ても
破綻のないように掘り出す
造形能力には圧倒された。
「アポロとダフネ」の逃げて触られた瞬間の月桂樹に姿を変えていく瞬間が
目の前で繰り広げられているような劇的なドラマ性。
ふたりと木や葉っぱを絶妙なバランス感覚で掘り出す技は、
古代ローマやギリシャを超越した人類最高の彫刻家とさえ僕には思える。
ローマにある数々の噴水彫刻は、
ローマの街を劇場のような場に変えた。
サン・ピエトロ大聖堂前のコロネードでは、
なるべく多くの市民を収容できるように
長軸200mの楕円形と台形で囲み、
大聖堂を遠く感じさせずに、オベリスクの中心性をより引き立たせた。
カトリック教会は権威を高めるため、
教会を彫刻や絵画で飾り立てた。
劇場の舞台のような
明暗のコントラストの中に
感情を表現した人間ドラマは、
ルネサンスにはない異質の感動を与える。
ローマのサン・ルイジ・デイ・フランチェージ教会の
壁面に描かれた「聖マタイの召命」「聖マタイの殉教」と
サンタゴスティーノ教会の壁面に描かれた
「ロレートの聖母」が今でも心に残る。
この教会の方が、柱にラファエロの絵もあるよと案内して下さった。
ラファエロは、ミケランジェロのあの天井画を見た後、
既に完成していた絵を壁から削り落として、
ミケランジェロ風の人体表現と色彩に描き直した。
「天地創造」の天井画はそれほど後の芸術家に多大な影響を与えたのだ。
つづく。
司建築工房
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