L'Ancienne Poste のオーナー、ポーランド出身のハンナが、
滞在中にしてくださったご好意は、一生忘れないだろう。
村には食材を買えるお店がないからと
遠くのスーパーに連れて行ってくれたり、
全てをここでは語り尽くせない。
次の巡礼地、プロヴァンス3姉妹の
ご次女さまに会うためリュベロン地方へ。
近くには、古城を頂として階段上に建物が折り重なった、
天空の城とでも呼びたくなるゴルド村があり、
ヴォークリューズの谷に
セナンク修道院がある。
最初は俯瞰して眺め、
徐々にコンバーチブルで降りてゆく
楽しみを味わったのだけれど、
山の頂上付近で、すでにラヴェンダーの香りが
風に乗って、入浴してるかのようだった。
かつてこの谷には、川が流れていたらしく、
水の需要を十分に満たしたらしい。
石の屋根には、岩肌の見える
この丘のものが使われている。
日々の信仰と生活の機能に適うように、
回廊を中心として、3姉妹とも
ほとんど同じ規模と平面構成になっているけれど、
シトー会の思想が建築に表れ、
すでにゴシックの交差リブヴォールトを採用していて、
優れた音響効果を生み出している。
セナンクでは現在も修道生活が営まれていて、
聖堂の内部でグレゴリオ聖歌の神秘的な響きを聴いた。
谷の敷地の関係で、セナンクでは聖堂の内陣が、
東ではなく北向きになっている。
身廊の上部にはクリア・ストーリーが設けられていて、
新たな光のグラデーションの試みが感じられる。
下から見上げる窓のエッジと柱やアーケードの角の精度は、
ル・トロネと同様の精神性が宿っていた。
ギリシャのオーダーを想わせる
アカンサスの葉や
様々な植物文様が刻まれていて、
樹の不死を示すヘレニズムの普遍性の中に
ケルト的な葉や蔓の繁茂の思想が織り込まれている。
回廊の原型は、地中海沿岸で生まれ、
建物の内部に作られているから
外部の音は遮断され、静寂が保たれる。
モンテ・カッシーノ修道院には、すでに回廊があった。
ヴォークリューズの谷は、周りの山で隔絶されて、
修道院の他に建物は一つもない。
石の回廊でさらに隔絶された中庭の緑の静寂は、
あたかもヴォークリューズの閑居で頂く
一服の茶碗の茶溜まりのように思われた。
修道院の核心は、「ひとり」で住むことで、
砂漠や洞窟から始まり、東方に起源を持つ。
キリスト教は、コプトやユダヤ的閉鎖から
「ひとり」を尊重しながらも「共同」で隠修する
普遍へと開かれてゆく。
「サイエンス」誌上に掲載された、フランスの各地に残る
洞窟壁画を描いたネアンデルタール人は、孤立して滅び、
身体的に劣るホモ・サピエンスが集団生活をし、
宗教を持つことで連帯感が生まれ、
危機を助け合うことで生き延びた。
外に出て、日陰に腰を下ろしていると気持ち良くて、
辺り一面に立ち込めているラヴェンダーの香りに浴しながら
この風の谷の風景にしばらく身体を緩めることにした。
ラヴェンダー畑に目を奪われた。
ゴルド村の近くに、ボリーと呼ばれる
板状の石だけで積み上げた、
新石器時代から伝わる建築で、
ローマ時代から続いていた集落があった。
笠木だけ板状の石を立てる石積みの塀も
この地方の伝統だろう。
19世紀のフランスの田舎暮らしを体験して、
旬の食材と手作りの心を頂き、
のんびり過ごせた。
心落ち着ける幾つもの景色は、
良き瞑想の助けになってくれるだろう。
ラヴェンダーの紫色が際立つ季節、
赤いひなげしの花と糸杉の長閑な風景に
心も身体も癒された旅になったのでした。
司建築工房
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