町は政治的動乱に襲われていた。
サボナローラが「虚栄の焼却」を行い、
市民の生活は殺伐としたものになる。
「火の試練」を拒否したために
サン・マルコ修道院に市民が押し寄せ、
サボナローラは捕らえられ、
シニョリーア広場で焚刑に処される。
不安定な混乱の時期に、フランスとの外交交渉の現場に立った
マキャヴェリは、イタリア統一を構想し、
君主制のあり方を思索していた。
ピエタを制作した26歳のミケランジェロが、フィレンツェに戻ると
S・M・デル・フィオーレ大聖堂造営局の仕事場に
荒彫りされ、脚になる部分に大きな穴が開けられた
大理石の塊が放置されていた。
創作の可能性が限られていた大理石の形に構図を合わせ、
フォルムを彫り出すことがまだ可能だと判断したミケランジェロは、
2年半で「ダヴィデ」を完成させる。
羊飼いの少年のモチーフを
芸術家によって着想が千差万別で面白い。
ドナテッロの「ダヴィデ」は、
倒したばかりのゴリアテの首を踏みつけている
等身大の少年の裸像で、甘美な姿なのに対して、
ゴリアテと戦う前の緊張感を湛えた
巨人の青年裸像だ。
光を透過する大理石の彫刻は、
ギリシャ彫刻の系統を踏まえた
幻想的な魅力に満ちている。
石から掘り出されたことを忘れてしまうほど、
割礼の跡がないルネサンスの表現と
血管や筋肉の弾力感は生身の人間のヌードだ。
ルネサンス爛熟期の当主ロレンツォ・デ・メディチに、
10代で住み込みの修行を許され、
人文学者たちから様々な知識を得て、ギリシャ彫刻に魅せられ、
人体研究に興味を持ったミケランジェロは、
キリスト教社会では御法度だった人体解剖によって
秘密裏に人体内部の構造と動きを知り尽くし、
人間の真実に迫っていった。
ルネサンスのリアルな人体表現とともに
ダヴィデが民衆を守ったように、フィレンツェを
救うという壮大なスケールの主題を提示した。
ローマの劫略の知らせに反教皇感情が高まったフィレンツェでは、
市民が狂乱して、「ダヴィデ」の左腕は一度折られている。
新しくユリウス2世が教皇になると
前例のない規模の自分の墓碑を作らせるために
ミケランジェロをローマに呼び寄せる。
ユリウス2世は、デッサンに強い感銘を受け、
サン・ピエトロ大聖堂の再建と小さな町に成り果てたローマを
かつての帝国時代の輝きを蘇らすアイデアが芽生えたという。
制作の中断を余儀なくされたのが、
ダビデ像の前に置かれている
未完の彫刻作品「聖マタイ」。
ユリウス2世の墓碑に使われる予定だった
未完の「若い奴隷」「奴隷アトラス」
「覚醒する奴隷」「髭のある奴隷」。
そして80歳の時の「パレストリーナのピエタ」。
命を彫り出すノミの跡が残る石の塊は、まるで鋳造の鋳型を壊したら
作品が出てきそうなエネルギーを感じて、改めて感服するのでした。
つづく
司建築工房
♪・・・・・・・・・・・・・・・・・・♪
大地の樹木 本物の素材 火のある生活