2018年07月11日

ル・トロネを訪ねて 2

きっちり真東に軸線を合わせた内陣の3つの窓と
アプス上部の丸窓からの光が辺りの石を黄色く染め、

tucasa_le thoronet_0662_R.JPG南側の翼廊の上部に穿たれた
紫色のステンドグラスからの光が
翼廊をピンクに染めていた。

西側を見返すと、
青や緑のステンドグラスになっている。

すべて単一の石で造られた、
小さな窓からの自然光による

ストイックな空間を想像していたから、
色のインパクトに少々驚いた。

彩り豊かな花咲く盛夏のプロヴァンス。

朝から閉館まで居たけれど、
色の光の変化による石の表情は飽きることがなかった。

大地の鉱物である石は、
永遠性の象徴として古来から崇められ、
信仰の対象になってきたけれど、

純粋な石の空間がもたらす美しさは、
美意識を超えた力として日本人の僕に迫ってくる。

木と違って石は瞑想するんだと。

tucasa_le thoronet_1171_R.JPG切石の柱やアーケードの角の精度や、
特に光が横から差し込む窓のエッジの曲線の精度は、

手彫りの跡とともに、
造り上げた現場の様子を想像して尽きなかった。

このエッジのディテールが光と影に表情を与えていて、
その精神性と豊かなイマジネーションに感じ入る。

ヘレニズムや彫塑性とは全く異なるロマネスクだけれど、
アニミズム信仰による精神性を表現したアフリカ美術とは違い、

やはり古代ギリシャ以来の直線や正円、
同じ形の繰り返しの美意識による数学的比例に基づいている。

平面寸法や窓の大きさと位置や数、立面や回廊のプロポーションも、
アーケードの柱の寸法や柱頭の角度も、ありとあらゆる寸法の根拠が、

比例と意味を持った特定の角度によって決定され、
光のグラデーションが慎重に考慮された。

心地良い秩序とリズムの感覚は、
可聴的協和音と幾何学的比例によって、
永遠の調和を反映する思想が流れているからだろう。

午前中に小学生の授業で引率していた先生の一人が
聖堂でグレゴリオ聖歌を子供たちに歌って聴かせた。

修道院の聖務日課では、単旋律を全員で歌うことによって生じる
神秘的な共振の響きだったと思うけれど、
音楽は永遠の調和を反響するもので、建築と同等の価値を持った。

グレゴリオ聖歌にもギリシャ的な数学的思考が内在する。

音を楽譜に書き留めて後世に伝えるアイデアは、
グレゴリオ聖歌から生まれ、五線譜に発展した。

その他の様々な部屋へ階段で上へ下へ行き来し、
山の斜面を切り開いた敷地の特徴を生かした高低差の
空間構成の妙も特筆すべきだけれど、

tucasa_le thoronet_1460_R.JPGル・トロネの白眉は回廊で、
回廊自体の階段と傾斜路による高低差と

根底に流れる重要な角度の半角ずつ
長方形を崩した形、
各方位のアーケードの数と長さの比率が

唯一無二の、飽きることのない滋味と雰囲気を作り出している。

シトー会の修道院回廊は、ブルゴーニュ地方に今もなお
清らかな泉の湧く森の中に、12世紀のままの風景を留めている、
フォントーネ修道院にその原型を見るけれど、

ル・トロネは、回廊のアーケードのプロポーションは同じでも、
回廊の長さに応じて幅と高さを換えて各々バランスを取っている。

古典主義の比例関係を、
異なるスケールで調和的に並存させることは、
ルネサンス以降の特徴で、

ゴシックは基本的に、モチーフを一つのスケールで用いている。

見る者に快い調和をもたらすバランス感覚と評された
パラディオよりは少ない語彙ではあるけれど、
すでにロマネスク時代にそのバランス感覚を作り出した。

分厚いアーケードごしに、回廊の床より高い中庭の緑に
真っ赤な薔薇が咲いていた。

薔薇の歴史は古く、古代エジプト時代からあり、
ギリシャ神話のアフロディーテが海から生まれた時、
最初に咲いた花が薔薇で、

中世薔薇は、ゴシックの円い薔薇窓に表現されるように
聖母マリアへの愛のシンボルだった。

回廊の静寂は、日本の茶室と同様、
水の音や鳥の声に耳を澄ます条件であり、恵みである。

tucasa_le thoronet_0822_R.JPGブルターニュの巨石文化を留める、
ロックマリアケルの石室の支柱柱に

太陽によって熟れた麦の穂が刻まれ
太陽信仰の跡を留めているけれど、
ル・トロネの柱頭彫刻にも見つけた。

大地と水、空気と太陽のもとで育まれる植物のように
ステンドグラスに描かれた組紐文様からも喚起される、

森に生きたケルトの樹木のごとき
忍耐による成長の心性が息づいている。

修道士たちの健康的な生活のため
今でいうパワースポットのような地球の
地場エネルギーの強い場所が選ばれたと知り、

想像を超えた当時の叡智に興味が尽きない。


司建築工房

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 大地の樹木 本物の素材 火のある生活

posted by Koji at 22:02 | TrackBack(0) | 建築ツアー
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