2017年10月08日

トスカーナの休日 2

たまたま泊まった宿が、元ローマ教皇庁の書記官の邸宅で、
13世紀の建物でした。

tucasa_pienza_ 1169_R.JPG朝、夜明け前の散歩。
ピエンツァの街から見下ろすオルチャの谷に
白い朝靄がたなびき、

朝日が昇って、
果てしなく続く丘を照らした風景は、
2オクターブくらいテンションが上がりました!

美味しい空気、鳥や動物の声と鐘の音。
樹々や土の匂い。

tucasa_pienza_ 1206_R.JPG近代的なものや豪華なものはないのに
五感で癒される。

より速く、より簡単に、より便利に、
東京ーハワイをロケットで30分とか、

その一方で歴史や環境を
破壊していることには
目を向けない。

ライフスタイルを含めて
社会が急速に激動している中で、

人間にとって心地よく大切なものって
何なのかを気付かされます。

部屋の窓からの景色は、オレンジ色の屋根の向こうに広がる
トスカーナの絶景!

tucasa_pienza_ 1378_R.JPGこの宿の朝食は、
混じりっけのない本物の味だと感動するもので、

簡素な中にも設えからきちんとした食器で、
きちんとした食事をすることの大切さを
改めて感じさせて頂けるものでした。

給仕の方の家が隣町のモンテキエーロという
地図にも載っていないような街だけれど、

とても綺麗なところで、また違ったオルチャの谷を見られますよ、
とのことで、廻りの小さな集落を転々とドライブ。

渓谷には、中世にローマからエルサレムへの主要な巡礼路として
多くの巡礼者や商人たちが行き交った、フランチジェーナ街道がある。

tucasa_pienza_ 1445_R.JPG隣町から見る丘の上の
ピエンツァの景色も素敵でした。

こうした広大な景観は、
厳しい土地利用規制によって

保全されているんだけど、
実はすべて民間で行われている。

まちづくりの会社はポケットマネーを出し合って作られた。

自然保護区域に登録すると、区域内での一切の建築に許可がいるし、
水道や電気を引くにも制約を受け、好きにできなくなる。

でも区域内の五つの街や村の人々は、
自分たちの地域が生き残るためにも
美しく守る枠組みを決めるべきだと犠牲を受け入れた。

地元の事業者のためならと資金面で援助したのが
民間のシエナの銀行だ。

tucasa_pienza_ 1447_R.JPG今ではアグリツーリズムとスローフードが、
農業所得を拡大させ、

過疎で放棄された建物の補修も進み、
景観保全に大きく貢献している。


個人の利益より人類の遺産を優先させるというイタリア人の考え方、
文化的景観という発想をしっかり胸にしまいます。

帰り道はシエナに立ち寄ったんだけど、
車で旧市街地に紛れ込んでしまって、

細い街路に観光客が大勢歩いてるし、
テロに間違われないように心尽くしの徐行で凌ぎ、

配達に来ていた業者のお兄ちゃんに
どうやって抜け出せばいいか、すがって

おお、入って来ちまったのかい、と笑って
親切に脱出経路を教えてもらいました。

立派な城壁に囲われたシエナの街は、
他の街と同じ文法を使った中世の街なんだけど、

それぞれ街ごとに個性があって画一的でなく、
色んな街を訪ねてみたくなる旅心をますますくすぐります。

主要な街を繋ぐ高速道路は無料で合流し、渋滞もなく、
目的の街ですっと降りるという、ドイツと同じでした。

行きとは違った道で新しいトスカーナの丘陵の景色を満喫しながら、
アルノ川を渡って、フィレンツェの旧市街へ戻ったのでした。

司建築工房

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2017年10月07日

トスカーナの休日 1

フィレンツェから南へ。
FIAT500で、サン・ジミニャーノに立ち寄りながら、
ピエンツァへお出掛け。

車窓から眺めるトスカーナの折り重なる丘陵の景色は
飽きることがない。

自然の地形はなだらかな曲線なんだと気付かされる。

tucasa_s.gimignano_ 1004_R.JPGサン・ジミニャーノには、
僕が好きなチステルナ広場がある。

12世紀頃の建物に囲われた三角形の広場で、
自然の地形のまま傾斜していて、
真ん中に13世紀の井戸がある。

この井戸を囲む石段に
人々が気持ちよさそうに座っている。

中世の富と権力を誇示する象徴の
塔の大半が壊されている現在にあって、
かすかに塔が林立する街並みを留めている。

丘陵地の丘の上に城壁で囲われた中世の街並みは、
自然の地形に寄り添うように限られた素材で作られていて、

自然発生的に不規則で変化に富んだ集落は、
歩くごとに絵になる風景に出会える。

歩く蛇行した通りや狭い路地は、自然のまま起伏に富んでいて、
地元の業者さんの車以外はないから、
この魅力的な迷宮空間はしばらく時を忘れてしまう。

目的のピエンツァの街は、人文主義者のピウス2世が、
「建築書」を書いたアルベルティに紹介されたロッセリーノと共に

生まれ故郷の中世の街並みの一部を
ルネサンスの理想の広場に改造した特別な街なのです。

しかも中世の絵画的で有機的な街並みと調和して、
550年経った今でもそのまま保たれている。

tucasa_pienza_ 1173_R.JPG広場の形はフィレンツェのところでも触れましたが、
逆台形で、広場の正面にある

以前は宗教的理由の伝統方位である東西軸の
ロマネスク様式の教会堂を壊して、

広場の正面のファサードを
ルネサンス様式の南北軸の教会に建て替えた。

広場の右側パラッツォ・ピッコロミニのファサードは、
フィレンツェのパラッツォ・ルチェッライの言語そのままに、
幾何学的なシンメトリーは、トスカーナ地方のパラッツォ風だ。

丘を見下ろす南側は、1階が庭に面する柱廊で、
2階はテラスになっていて、
田舎のヴィラの要素も持ち合わせている。

教会とパラッツォの間から垣間見えるオルチャの谷の遠景が、
ピエンツァならではの広場の風景になっている。

tucasa_pienza_ 1130_R.JPGパラッツォの通り側の隅に井戸があるんだけど、
地元のおっちゃんがこの井戸に集まって、

通りの向かいのお店に寄ったおばちゃんを
からかっている日常風景は微笑ましかった。

ルネサンスの広場の特徴である
中心や軸線にモニュメントを置くところを

ここでは広場の多目的な使い勝手を優先して、
井戸を端に寄せているのは、中世の作り方だ。

広場以外の中世の街並みとの
頃合いを計ったのだと思いました。

ルネサンスの理想表現をするよりも
周りの環境との誠実な対話を優先させたのです。

広場の左側もパラッツォで、
広場の通りを挟んだ手前の

向かい側のパラッツォには柱廊があり、
シンボル的な教会を眺める景色を楽しむのに
一役買っていると思う。

オルチャの谷を見下ろす丘の上の
東西400mほどの小さな集落のピエンツァは、
トスカーナでも最も美しい自然風景に恵まれたところにある。

車は全て城壁の外に停めるから、
城壁の中は人のための迷宮空間で特別な場所だ。

tucasa_pienza_ 1319_R.JPGこの自然の地形に寄り添うように作られた
土着的な味わい深い街並みは、

現代の無機質で画一的な都市空間で失われた
人間性を呼び覚まし、
歩くごとに新しい素敵な風景を発見できる。

日が暮れてから、雨に濡れて
一つ一つ違う個性の石畳が、

オレンジ色の街灯に照らされた
美しい景色にも出会えたのでした。

つづく。

司建築工房

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2017年10月06日

チョイ住み in Firenze 3

ここまでくるとアカデミア美術館にある
ダビデ像に触れないわけにはいきません。

tucasa_firenze_ 485_R.JPG石から掘り出されたことを忘れてしまうほど、
割礼の跡がないルネサンスの表現と
血管や筋肉の弾力感は生身の人間のヌードです。

ダビデ像の前には未完の彫刻作品が並べてあり、
一部分だけ肉感的なノミの跡が残る石の塊を観ると、

しかもサン・ピエトロ大聖堂のピエタや
このダビデ像が20代の作品だと思うと
凄い芸術家だと改めて感服します。

ローマのところで触れませんでしたが、
彫刻で感動したと云えばベルニーニ。

ボルゲーゼ美術館にある「プロセルピナの略奪」は、
僕が一番心奪われた彫刻作品だ。

tucasa_rome_ 3231_R.JPGギリシャ神話の一場面を
逃げようとする抵抗の躍動感でドラマティックに、

しかも指が柔らかなもとももに喰い込むリアリティを
またふたりを3次元にどの方向から見ても

破綻のないように掘り出す
造形能力には圧倒される。

「アポロとダフネ」の逃げて触られた瞬間の月桂樹に姿を変えていく瞬間が
目の前で繰り広げられているような劇的なドラマ性。

ふたりと木や葉っぱを絶妙なバランス感覚で掘り出す技は、
古代ローマやギリシャを超越した人類最高の彫刻家とさえ僕には思えます。

ベルニーニはバロック時代の人で、ローマにある数々の噴水彫刻は
ローマの街を劇場のような場に変えた。

またサン・ピエトロ大聖堂前のコロネードでは、
なるべく多くの市民を収容できるように楕円形と台形で、
大聖堂を遠く感じさせず、中心性を持って引き立たせた。

これらの芸術は、文化に理解あるパトロンの支援があったればこそ、
今の我々が堪能させてもらえるのだ。

tucasa_firenze_ 775_R.JPGそういった意味で、
フィレンツェでのルネサンス期に支援した

メディチ家などの功績は、
やはり後世に語り継がれる偉業です。


ウフィッツィ美術館にも
必ず見たい美術品がある。

リッピに師事したボッティチェッリの
「プリマヴェーラ」と「ヴィーナスの誕生」。

tucasa_firenze_ 668_R.JPGメディチ家のカステッロの別荘に
飾られていたという対をなす作品は、

宗教的モチーフを題材にしたものでなく
ギリシャ神話に因んだ題材で、

古代ローマ時代の人間性の再生、
人間と自然の美を表現した立体感と物質感は、
僕が一番ルネサンスの息吹を感じる作品です。

生でじっくり観ると植物等実によく描いてあって、
ヴィーナスの表情になぜか泣けてきました。

ヴェロッキオに師事した20歳のダ・ヴィンチの「受胎告知」は、
すでにスフマートの技法や遠近法で描き、
大天使ガブリエルのまなざしに心を惹きつけられる。

そして、キアロスクーロの技法でテネブリズムとも呼ばれる
劇場の舞台のような明暗のコントラストの中に

感情を表現した人間ドラマを描いたカラヴァッジョは、
ルネサンスにはない異質の感動を与える。

ローマのサン・ルイジ・デイ・フランチェージ教会の
壁面に描かれた「聖マタイの召命」「聖マタイの殉教」と

サンタゴスティーノ教会の壁面に描かれた
「ロレートの聖母」が今でも心に残る。

支援した人がいて、芸術家が才能を発揮し、
それを保存修復に努めた人がいて、

愛しんで鑑賞した人々がいたからこそ、
こうして望めば感動に浸れることができるのだ。

tucasa_firenze_ 360_R.JPG現在でも世界遺産や芸術作品の修復費用は、
入場料以上に

民間企業の寄付によって守られていることは、
ローマのところでも書いた。

サン・ジョヴァンニ洗礼堂にある、
ギベルティが27年間製作に没頭したという

通称「天国の扉」のレプリカ製作は、
日本の茂登山長市郎さんの寄贈だ。

市民が住みたいと感じる、
世界の人々が訪れたいと思えるまちづくりの陰には、

文化財と名の付く保存ではなく、
名もない歴史的建造物が集まった街の保存を

名もない一人ひとりの建物所有者や
商業を営む経営者一人ひとりが、保存再生に投資をし、

建築家が魅力的なレスタウロをし、
そのほとんどが民間工事によって

都市の保存がなされてきたことを
忘れてはならない。

長くなりましたので、別の機会に致します。


司建築工房

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2017年10月05日

チョイ住み in Firenze 2

ブラマンテと云えば、ヴァチカンのサン・ピエトロ大聖堂。

単純なギリシャ十字に幾何学形態が立体的に繋がり、
壮大な正半球のドームに導かれるブラマンテの計画案に

構造的なプラン修正を行い、実現に漕ぎ着けたミケランジェロ。
ドームの外観は自重に耐える紡錘形になったけれど、
内部は正半球の天井が実現されている。

近代の鉄骨やプレストレスト・コンクリートがない時代に
石と煉瓦と木で理想の形態、プロポーションを
現実的に可能な構造として実現させた苦労たるや、

荘厳な装飾や天井画と共に、
建築に携わった先人たちの苦労の結集を
首が痛くなるまで天井を眺めるのでした。

tucasa_firenze_ 535_R.JPGそれは古代ローマの先人たちが造ったパンテオンも
そしてブルネレスキが実現させた

S・M・デル・フィオーレ大聖堂の
八角形の煉瓦製ドームもです。

ここでようやくフィレンツェに戻りましたが、
街路から、また窓から見えたりすると

絵になるオレンジ色のドームは、
後世の人々に残した素晴らしい遺産です。

ブルネレスキは現場の監理、職人や道具のことまで関わった人で、
規模は違いますが、僕も現場監督をして工事を請け負うので、
親しみの湧く尊敬する人物です。

tucasa_firenze_ 897_R.JPGブルネレスキが設計したサン・ロレンツォ教会や
サンタ・クローチェ教会パッツィ家礼拝堂、

設計者と現場監督の立場で建築を味わうほどに
大変な熱意と苦労を感じ入るのです。

街で見かける足場のある工事現場は、
新築はなく全て外装の補修か内部の改装だ。

古い建物のレスタウロで上手く再生させた店舗など
いくつも魅力的な都市デザインを見てきました。

外観だけ残しただけではただの景色で、そこに人々が生き生きと
必要な用途で使って働いているからこそ、街並みが美しくなる。

古いというだけで人は惹かれるのではなく、
レスタウロして今の時代において魅力を感じるからだ。

フィレンツェに来たらやはりどうしても会いたくなる美術品がいくつもある。

tucasa_firenze_ 418_R.JPG木の梁と小屋組が親しみを感じる
静謐なサン・マルコ修道院。

真っ先に階段を目指して、
踊り場に出た時正面に見上げる
フラ・アンジェリコの「受胎告知」。

クリスチャンでなくても不思議な安堵感の中で、
瞑想するようだ。
宗教的モチーフの題材ですが、透視図画法はルネサンスを感じます。

小食堂(ブックショップ)の壁一面に描かれた
ギルランダイオの「最後の晩餐」のフレスコ画は、

この部屋のヴォールト天井に合わせて、天井を透視図画法で描き、
窓も延長して描いて、窓からの光も部屋と同化して描かれている。

ローマのところで触れませんでしたが、ミケランジェロの
システィナ礼拝堂の天井画のような、

絵の一部が建築の延長のように錯覚させる
見事さを感じました。

フレスコ画は漆喰を塗って、
濡れているうちに下絵から陰影などの細部まで
描ききってしまわなくてはいけない。

システィナ礼拝堂では、大きな面積を継ぎ目も感じさせず、
天井も壁も良く描かれている。
カーテンの表現なんて、最初絵だとは気づきませんでした。w

ギルランダイオは、若き日のミケランジェロが師事した師匠だ。

つづく。

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2017年10月04日

チョイ住み in Firenze 1

ローマから高速鉄道でフィレンツェへ。

tucasa_firenze_ 268_R.JPG旅情を誘う駅は、イタリア人男性の
耳に心地よいアナウンスだけで、

騒がしい音がなく、
ただ電光掲示板を見つめて到着を待つ。


列車は何のアナウンスもなく動き出し、
車窓からトスカーナの風景を眺めながら
静かな大人の時間を楽しむ。

列車はやはり何のアナウンスもなく、
centrale S・M・novella駅に到着した。

思想の中心が神から人間に移され、
学問と芸術の宗教的束縛からの解放、個人の独立と自由など
近代の先駆けとなるルネサンスが生まれた街、フィレンツェ。

美術においては肉体描写、文学においては心理描写。
そして建築においては、幾何学や透視図法によって、
新しい秩序の都市計画が行われた。

車のなかった時代の人間的なスケールの理想都市は
広場や建築のファサードなどに表現された。

そういう視点で訪れた今回は、歴史的市街地の15世紀の建物を
18世紀にレスタウロした住居にチョイ住みしながら、
ローマに引き続き、毎日街歩きとルネサンスの芸術に触れました。

tucasa_firenze_ 836_R.JPGフィレンツェの初日にしたことは、
足にやさしい靴を買うことでした。

つま先から頭の先まで油断しちゃいけない、
イタリア男は特に靴に気を遣う、とばかり

ローマで気合いを入れ過ぎて、
膝に痛みを感じる始末。w

案の定、おしゃれな外国人観光客の
足元に注目したら、みんなカジュアルです。

一日中歩き回る所詮旅人は、水を得た魚のように
石畳を軽やか歩くのでした。

新たな建築設計手法で行った建築家はブルネレスキだろう。

アンヌンツィアータ広場では、二つの独立した建物を
アーチが連続する柱廊のあるファサードにして、
広場の二面を同じ様式と材料と色で統一感を与えた。

tucasa_firenze_ 3448_R.JPGその後サンガッロが、広場のもう一面を
同じ言語の柱廊によって連続性を与え、
広場が一体化され、後に、

S・M・デル・フィオーレ大聖堂の
ドームに向かって

軸線となる位置に騎馬像と
その左右対称に噴水が設置されている。

ブルネレスキ初期の作品、捨子養育院と向かいの建物の柱廊は
人の背丈ほど階段上に高くなっていて腰掛けられるし、

可愛らしい子供のメダイオンの青が、他の色にもマッチしていい。

実際は大人たちの許し難い都合で、
織物に巻いた赤ん坊を置き去りにしたんだけど、、、

tucasa_firenze_ 846_R.JPGこの街は中世の街と同様、
街路沿いに建物が並んでいて、
通りから中へ入ると様々な中庭と回廊がある街だ。

それは多くのパラッツォや教会で見られるし、
今回借りた住居も同じで、
これが伝統的な中世の住居の作り方だろう。

ルネサンスの広場と云えば、
ピエンツァのピウス2世広場や

そしてローマのところで触れませんでしたが、
ルネサンス理想都市のアイデアの集大成とも言える
カンピドッリオ広場がある。(前の記事で写真掲載)

パウルス3世という文化レベルの高い施主に恵まれ、
円熟期のミケランジェロが才能を遺憾無く発揮できた。

カンピドッリオの丘は、古代ローマ時代には神殿が作られ、
ローマ市民にとっては町の起源を意味する象徴的な丘だった。

広場の隅の円柱上に、ローマ建国神話の
カピトリーノの雌狼像がある。(前の記事で写真掲載)

ミケランジェロは、この丘の両サイドに中世から建っていた
既存建物の条件を活かして、逆台形の広場にした。

逆台形の広場はピエンツァのピウス2世広場の先例があるんだけれど、
正面の聖堂が実際よりも近く、大きく見える。

ミケランジェロは両サイドを
神殿のようなオーダーの柱廊のある建物に改造して、
正面の建物も様式、材料、色に統一性を与えて、

広場を楕円形に、しかも階段上に掘り下げ、
床の舗装を地球儀のような曲線模様を描いて、
その中心に騎馬像を設置した。

ここが古代ローマの中心、すなわち世界の中心ということを
象徴的に表現したのだろう。

やはり空間の軸線、シンメトリー、透視図的効果を重要視した
ブラマンテ、ラファエッロと同じ考えが窺えるのでした。

つづく。


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2017年10月03日

チョイ住み in Rome 3

景観規制は、建物だけでなく、看板、広告物、店舗デザインにまで及ぶ。
建物の外観を維持するだけでなく、むしろ標識や広告物に
調和を与えるデザイン手法が、ローマの都市景観を形成している。

ジェントリフィケーションが起き、
歴史的市街地にはかなりの高額所得者しか住んでない
格差社会も垣間見えたりするけれど、

tucasa_rome_ 142_R.JPG先人たちが築いた玄武岩の石畳にしても、
現在の市民の方々の街の美観を
保存したいという尊い意思によって、

我々はかけがえのない文化遺産を
享受させてもらえるのだ。

またコロッセオはローマの貴重な遺産であるという市民の声が高まり、
19年間に渡って大規模な修復工事が行われたんだけど、
その費用は民間の銀行が負担している。

tucasa_rome_ 3119_R.JPGその他数々の文化遺産や美術品の修復費用は、
実は民間企業の寄付金で賄われている。

利益の半分は地元に戻すという企業倫理が、
イタリア文化の奥深さかもしれない。

ある夜の歩き疲れて、たまたま入った
壁がワインで埋め尽くされた
クチーナはいい思い出だ。

店長含め3人の男性給仕は、
ゴッドファーザーの世界を彷彿とさせる出で立ちで、

常連客や東欧の富豪風グループ、
旦那がスパイかもしれない風ロシア人家族の中、

プロフェッショナルな身のこなしは
まるでオペラの舞台のようだった。

僕らの野菜が食べたいという要望に
炒め物、蒸し物の野菜を松の板に載せて出してくれて、

お薦めのトスカーナのTボーンステーキを頬張ったら
旨い!目がランランとエネルギーが湧いてきた。

tucasa_rome_ 3414_R.JPG店長からのおごりですというアマーロは、
これ絶対マフィアしか手に入らない、

市場には出廻らない酒だろうと
想像してしまうくらい美味しかった。

ティラミスも絶品で
カプチーノには心温まるメッセージ。

ミケランジェロやベルニーニ、カラヴァッジョなどの
芸術作品も感動的でしたが、
話題は尽きないのでまたの機会に。


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2017年10月02日

チョイ住み in Rome 2

イタリアは世界遺産の宝庫、その60%はローマにあるという。

古いものを壊さず、残しさえすれば、
それが観光資源となり、文化価値となり、経済価値になることに
イタリアの自治都市国家の人々は早くから気づいた。

tucasa_rome_ 188_R.JPG保存修復の起源はルネサンスだけれど、
ミケランジェロがディオクレティアヌス帝の
浴場跡の大浴場部分を

S・M・デッリ・アンジェリ教会に
レスタウロした例など
古代ローマの建築を規範とした。

ルネサンスはメディチ家をパトロンとしてフィレンツェで展開されたが、
後期は教皇をパトロンとしてローマで展開された。

ローマの街は、古代ローマからロマネスク、ゴシック、ルネサンス、バロック
と目にする景色は飽きることがなく、

今回歴史的市街地にチョイ住みして、
深夜や早朝までよく歩きました。

tucasa_rome_ 155_R.JPG毎朝カンポ・デ・フィオーリ広場の朝市で
果物、野菜、生ハムを買って、

バターをはじめ乳製品も新鮮で美味しく、
しかも安い。

中世の街並みは、道がまっすぐではなく幅も色々で、
ふと色んな形の広場に出て、

街中に噴水がたくさんあって、
古代ローマの遺跡が目の前に現れる!

ローマは元々沼地で、水は確保できたんだけど、
人口の増加と市民に良質な水を供給するために
何十キロも先から11本の水道を引っ張った。

そのうちの1本ヴィルゴ水道がアックア・ヴェルジネ水道として
引き継ぎ、紀元前からの水を今だに供給している。

街路にふと現れる水飲み場からは、カルキの入っていない良質な水が、
24時間、365日噴出し続けている。

ローマ帝国時代に築いた水道橋はフランスやスペイン、
トルコなどに及び、ヨーロッパの主要都市や街道も
紀元前のローマ人が築いたものが基礎になっている。

現代に受け継がれる悠久の歴史を感じる街歩きは格別です。

tucasa_rome_ 3303_R.JPG様々な広場や噴水は市民の憩いの場となり、
ボルゲーゼ公園などの広大な緑地もあり、

街中に心地よい居場所が
たくさん作ってある。


建物の外壁は限られた素材で統一感があって、
何より標識や看板の素材や材質まで建物と調和しているのだ。

つづく。


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2017年10月01日

チョイ住み in Rome 1

イタリア人には、夕方になると散歩に出て、
自分の街歩きを楽しみ、知り合いとの会話に花を咲かせる、
そんな日常の中に楽しみを見つける人生観がある。

そして人生を楽しむ単位は、まず夫婦、家族。
次に友達、近所や街の住人だ。

だからこそ自分たちの暮らす街を大切にし、
魅力ある街の暮らしをみんなで守ろうとする。

それは自分の家だけ魅力的にしても実現しないという
自治都市共同体の精神、コムーネを重んずる。

tucasa_rome_ 035_R.JPGそんなイタリアのまちづくりという視点で
現地を訪れたいと思い続けてきましたが、
ようやくその機会に恵まれました。

火山の噴火で埋もれた
ローマ時代の都市ポンペイの発掘により

紀元前の街に市役所や劇場、
2万人収容の円形闘技場などが見つかり、
道路は石で舗装され、
各住居には水道が引かれていた。

tucasa_rome_ 3156_R.JPG古代ローマ人の生活を快適にする叡智と
インフラ建設を可能にする高度な技術。

パンテオンやコロッセオのように
コンピューターや重機のない時代に、

現代でさえ困難な大規模建造物が
2000年前のまま建っている現実を
目の当たりにすると

過去の先人たちへの尊敬の念が自ずと湧き上がります。

tucasa_rome_ 099_R.JPGまたパンテオンやアッピア街道など、
有力者が私財を投じて建設された例も
少なくない。

この大規模建造物を可能にした秘訣は
ローマンコンクリートだ。

コンクリートを多用した文明はローマしかない。

パンテオンの基礎構造や壁の厚みの計算、
高さによって材質を使い分けたり、

ドームは厚みや建築的工夫によって
円形の天窓を実現していることなど

古代ローマの人知、学問の高さ、
高度な技術は驚くべきことです。

tucasa_rome_ 058_R.JPG僕はこのパンテオンが一番好きなんだけど、
建物自体が巨大な日時計になっていて、

4月7日頃と9月2日頃の年2回、
太陽の神アポロンと天空の神ユピテル

を祀る壁龕のアーチに
天窓からの円形の光が重なるのだ。

天文学や暦を自在に操る建築。

古代ローマ時代にヴィトルヴィウスによって書かれた「建築書」に
建築家は、幾何学に精通し、音楽を理解し、
星学あるいは天空理論の知識を持つこと、とある。

「ローマを知るには一生では足りない」

つづく。

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2017年09月10日

villa campo HP UP

5年毎に更新する建設業の許可申請と
建築士事務所の許可申請の提出を終え、

8月に竣工したvilla campo の撮影画像を
ホームページにアップしました。

ご高覧下されば幸いに存じます。

tucasa_villa campo_7122_R.JPG以前に僕が手掛けた建築で、
ベットルーム〜シャワー室〜パウダールーム
が連続する空間を気に入って下さって、

部屋に浴槽がある空間をつくることで始まった。

初めて現場を見たとき、
イタリアの広場にしようと思ったことは
以前のブログで書いた。

イタリアと云っても様々な街や自治都市があり、
魅力的な広場は数多くあるけれど、

玄関を入ってすぐ右に折れ、
構造の梁の関係で天井がかなり低い部分をくぐると
そこから3つの部屋に分岐している。

不足していた収納スペースを
広場の鐘楼に見立てて増設することで、

メインの空間へはまた右へ曲がるという
地中海的迷宮性を帯びたヴェネツィアの空間構成を思った。

狭くて薄暗い道からトンネルをくぐって、
明るい広場に出る感覚だ。

美しい外壁やリズミカルな回廊で囲われた広場は、
まるで大広間、はたまた演劇的舞台のよう。

いろんな方向から広場を眺め、
また広場の真ん中から周りを眺める。

ヴェネツィアがオリエントと西欧の文化が溶け合って、
独特の都市風景を作っているように、

ここでは日本の伝統技法の素材や文化と融合させて、
魅力ある広場を作りたいと思った。

地中海世界には古代から、
多くの建物がぎっしり並ぶ喧騒からは想像もできない、
緑と水のある静寂の中庭を作ってきた。

ヴェネツィアでは地域住民の生活と密接に結びついた広場をカンポと呼ぶ。
イタリア語では田畑や野原を意味しているらしい。

周辺の環境と対話して、人の感性に響く素敵な風景で囲まれ、
美しい舗装を施せば、人々に親しまれる広場ができるのだ。

今回のレスタウロの機会を与えて下さった
クライアントに感謝致します。


司建築工房

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2017年08月11日

夏のレスタウロ3

お盆前の現場より。

木部に自然の着色塗装をし、スイッチ・照明器具を取付け、
特注で製作した和紙2種類を張りました。

tucasa 346_R.JPG浴槽部分の壁に張った陶板と
相性の良い壁にしたくて、

茶の湯で建水や花入などに砂張という
鉛と錫に少量の銀を入れた色を目指して、

楮の太い繊維を混ぜながら、
水墨画のにじみとぼかしや
濃淡の技法で製作した紙です。

一日現場にいると、光の移ろいで
色や表情が多様に変化し、
様々な色の光を投影します。

tucasa 359_R.JPGもうひとつは、水を張った容器に墨を落とし、
細い竹で水面を動かし、

扇子で風を起こした模様の水面から、
和紙をそっと被せて写し取ります。

フィレンツェのマーブル紙が有名ですが、
墨流しという日本古来の技法で、

川の水面に墨を落として、
流れによって生まれる模様の変容を楽しんだ
9世紀頃の宮廷遊びが起源です。

今回は人にとって大切な五行の要素がすべて入っており、
とりわけ水の表現がテーマのカギとなっています。

tucasa 382_R.JPGそして今、内部空間のコーナーに
邪気を祓うような
力強い自然石を張っています。

シダ植物の化石も混ざったギリシャの石は
職人さんと一つひとつ洗いました。

大中のポイントとなる景石のリズムは
おおかた予定しておいて、
単調にならないようにひと手間ずつ積み上げていく。

tucasa 384_R.JPG機械の道具では切り口が
石の素材感を殺してしまうから使いたくない。

石の目を見、石と対話し、想いを巡らしながら
ノミと石頭(せっとう)、ビシャン、
刃トンボで叩く。

石の彫刻の歴史は3万年前の旧石器時代後期まで遡り、
古代エジプト、ギリシャには紀元前の傑作が数多く存在するけれど、

道具はその頃とほとんど変わっていない。

tucasa 397_R.JPG呼吸のように淡々と
内部空間にひとつの景色が
ゆっくり生み出されていく。。。

機械の音がしない、
石を叩く音だけが響く現場の

サウンドスケープは
そばにいて心地よい。


司建築工房

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